神鳥の卵 第20話クリスマス後編 |
時間は21時を回った頃だった。 ピッという機械音とともに目の前の扉が開かれ、白い通路が目の前に現れた。 「私、ここ通るの初めてだわ」 「そうなんですか?カレンさんは頻繁に来られているものだとばかり思っていました」 「私が?無い無い。だってここに来る理由もないし、会わせる顔もないわよ」 「そうなんですか?では、ずっとお一人でいらしたのでしょうか?」 「ロイドさんとセシルさんはよく来てるみたいだし、咲世子さんが身の回りの世話してるって話だから、1人ではないでしょ?」 「そうですね。でも、お友達は誰も近寄れないのですね」 「友達・・・か」 「心配ない。スザクは元々あまり友達いないから」 「まー、多いとは言わないけど、それなりにはいたのよ?ちょっと、あんたその目、信じてないでしょ」 「まあまあ、いいではないか。友人とは人数が多ければいいというものではない。何より我が君という最高の親友がいたのだから、それだけでも幸せものだ」 通路の先にある扉の前で再びIDカードと暗証番号、静脈認証によるセキュリティーを解除する。ピッという電子音の後目の前の扉が開かれる。 「まだ続くの?すごい厳重ね」 今度は5mほどの通路と扉。 「この扉が最後ですよ」 そう言って、最後の扉を開けた。 ****************** 「・・・!ナナリー、様」 異変に気づいた咲世子が玄関に向かうと、そこには本来ここにいるべきではない人々が立っていた。皆一様に笑顔で、その姿と手荷物から、何のためにここに来たのかは一目瞭然だった。 「お久しぶりです咲世子さん」 「ご無沙汰しております・・・これは、一体・・・」 「今日はクリスマスですから」 「スザク、戻ってますよね?」 ニコニコ笑顔の彼女たちは、サプライズパーティをするつもりなのだ。 咲世子とロイド、セシルがいるからそれなりにやっているだろうが、どうせならパーッと派手に、ゼロ=スザクと知るメンバーで飲み明かそうと、ジェレミアは大きな箱を抱えていた。中身はすべてお酒である。明日の公務はナナリー、ゼロ共に休みにし、カレンも休暇届を出してきていた。 本来であれば、咲世子はここで微笑み「スザク様も喜ばれます」と言って悪戯に加担しただろう。 だが、それを出来ない理由があった。 いや、いた。 反応の鈍い咲世子に違和感を感じながらも、カレンは「お邪魔しまーす」と室内に足を踏み入れた。 「あ、カレン様お待ち下さい」 「え?もしかしてスザクいないの?まあ、それでも帰ってくるでしょ?」 「いえ、それが・・・」 「奥、賑やか。誰かいる」 笑い声が扉の向こうから聞こえてくる。誰もいないということはないだろう。スザクの声も中に混じっているから、やはりロイドとセシルも来ていて飲んでいるのだろう。 「何かあったのですか?」 「いえ、あの・・・」 まさか、この奥にルルーシュがいるとはいえない。 しかも人ではなく天使として戻ってきているなどとても言える内容ではない。 どうしたものかと悩んでいると、賑やかな部屋へと通じている扉が開いた。 「ああ、咲世子ここにいたのか。ピザが切れ・・・お前たち、どうしてここに?」 「C.C.!?あんたこそ、どうしてここに!?まさか、スザクと同棲してるの!?」 あの部屋で二人でイチャイチャしていたからこそ、咲世子は自分たちを入れるのをためらったのでは!?ここでばったり顔をあわせたのも、二人の蜜月の邪魔は出来ないからと、こちらに控えていたと考えれば説明がつく。カレンはそう結論を出していた。 「は?私があの二重人格騎士と同棲だと?もしかして私に喧嘩を売っているのか?」 冗談だろう?冗談だよな?冗談でもたちが悪いぞ? ものすごく不機嫌そうに詰め寄ってくるC.C.に、「あ、これは違うな」と理解した。 図星なら同じセリフでも頬を染めて、少しは乙女の顔になるだろうが、今は完全に不愉快だという顔を浮かべている。 「どうかしたの?咲世子さん、C.C.」 C.C.の険悪な声が聞こえたのか、何かあったのかな?とスザクが顔を出した。 ・・・ゼロの仮面もつけずにだ。 もし賊やゼロの正体を知らない来訪者だったらどうする気だとC.C.は舌打ちしたが、次の瞬間思わず固まった。 イレギュラーの塊であるスザクは、常にイレギュラーな行動をする。 顔を隠していないのもそうだが、その腕に・・・すでに半分眠っているルルーシュを抱いてきたのだ。馬鹿か?この男馬鹿なのか?ああ、馬鹿だったな。大馬鹿だったな。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまでなのか?ゼロレクイエムで自分を殺し、1人で生きたことで少しは賢くなったかと思ったが、勘違いだったらしい。馬鹿は死んでも治らないとはよく言ったものだとC.C.は呆れ返った。 「スザク、あんたそれ・・・」 「スザクさん・・・?」 「記録」 「・・・枢木卿、その御子は・・・」 「え?あ!?えええ!?なんで皆ここに!?」 慌ててルルーシュを隠してももう遅い。 「赤ん坊!??あんた、子供いたの!?相手誰よ!?私の知り合い!?」 こうなったら制止など意味はない。 カレンはズカズカとスザクに詰め寄り、扉が開けっ放しだったためロイドとセシルも顔を出してきた。来客を確認した後は「あらあら」「あーあ、バレちゃいましたねぇ」と、のほほんと笑っている。 「君には関係ない!」 「関係ないわけ無いでしょ!あんたはゼロでしょ?ゼロの子供でしょ!?私ははゼロの親衛隊なの!そういうことも全部把握しなきゃ駄目でしょ!って隠すな!見せろ!!」 スザクは着ていたパーカーの中に隠すように抱いて、頑なに赤ん坊を見せようとしなかった。そんなやり取りも、すぐに終りを迎えた。 「スザクさん・・あ、あの、ご結婚・・お、おめでとう、ございます・・・っ」 あまりのショックにぽろぽろと涙を流しながら、ナナリーがお祝いの言葉を絞り出した。 わかっていたことだ。 スザクも成人男性なのだから、誰かと密かに結婚していてもおかしくないのだ。 戸籍のないスザクだから、籍入れられないが、内縁の妻を得ることはありえたのに。 ナナリーの一番はルルーシュだが、二番目はスザクだ。 だからユーフェミアとスザクが上手くいったと聞かされた時には大きなショックを受け、その夜は一人で泣いた。小さな頃から憧れだったユーフェミアには敵わないのだと、だからこそ諦めもついたし、あの頃はまだ最愛のルルーシュが傍にいた。 だが、今はもう二人共いない。 ユーフェミア以外の女性とスザクがなんて考えたこともなかった。 想像以上の衝撃に、感情が制御できず涙を流すナナリーに、カレンたちはもちろんスザクも動揺したが、一番動揺したのは当然。 ぺちん!と場違いな小さな音が聞こえた。 「ふぇ!?な、何!?」 「すぁぅ!!!!」 それは、怒りの声。「よくも!よくもナナリーを泣かせたな!!お前がそんな男だとは思わなかったぞ!!」と、今まで見たこと無いほど怒りに震えていた。 動揺したスザクの腕からにじりでて、小さな羽で浮遊すると、その小さな手で思い切りスザクの頬をひっぱたいたのだ。もともと非力なルルーシュが赤子になったのだから更に威力はないのだが、場の空気を一変させるには十分だった。 「羽!?え?」 「・・・あれ、は・・・?」 「にゃありー」 小さな天使はスザクの体を蹴り勢いをつけてナナリーの方へ向かった・・・のだが、もともとふよふよとしか飛べないルルーシュは途中で失速し、ジタバタと手足をばたつかせ前に進もうとしていたので、赤ん坊が飛んでいる姿に驚き呆然としている面々を無視し、C.C.がさっさと回収してナナリーに渡した。 ふんわりと柔らかく暖かな赤ん坊が、ナナリーの腕に収まる。 「にゃありー!すぁぅ、あぅあー」 幼い赤ん坊が泣きそうな顔でナナリーを見上げ、「スザクの馬鹿が何を言った!?ああ、可愛そうに、こんなに涙を流して」と、小さな手で涙を拭おうとしている姿を呆然とした顔で見ていたナナリーは、その瞳の色と髪の色、そしてこの暖かな愛情あふれる眼差しと声に心を震わせ、先程よりも大きな雫を両の目から零した。 「お、おにいさま!お兄様っ!」 頬を寄せ合うように小さな体を抱きしめ、歓喜の声を上げた。 そんなナナリーの姿にスザクは心の底からの笑顔を向け、ナナリーとルルーシュを包み込むよう二人を抱きしめた。 「え?え?ルルーシュ!?え???」 「記録」 「へ、陛下!?そんなまさか!?だがこのご容姿は!?」 「あーあ、バレちゃいましたねぇ」 「ロイド!説明しろ!!」 「怒鳴らないでくださいよ、ジェレミア卿。話は、お酒を飲みながらゆっくりしましょう」 さあさあ。と、ロイドに促され、ジェレミアとアーニャ、カレンは室内へ移動し、その場に残されたのは、涙をこぼしながら笑い合う幼馴染三人と魔女。 「困ったな、せっかくプレゼントを用意したというのに、とんでもないクリスマスプレゼントをサンタ(神)が先に配ってしまった」 さてさて、これ以上邪魔者が来ないよう玄関の施錠はしっかりとしなければな。と、魔女はシステムをピピピッと操作した。 **** ※ ゼロの居住区はブリタニア総督府の地下。 ナナリーの居住区も総督府内にあるという設定。 |